庵野秀明総監督の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を観て、壮大なるマーケティング的ネバーエンディング・ストーリーのひとつの終焉をみた。《1シート・マーケティング/1シート解体新書》(*ネタバレ無し)

天狼院書店店主および『1シート・マーケティング』(ポプラ社)著者の三浦でございます。

画像をクリックすると『1シート・マーケティング』の出版社のページに飛びます。


二十数年前のことです。
僕は当時身分だけ大学生で、放蕩に近い状態だったのですが、不思議と友達はいて、彼らに会うと必ず出てきた話題が、当時深夜テレビのアニメとして流行していた『新世紀エヴァンゲリオン』でした。

「人類補完計画」
「第3東京市」

などの言葉が新鮮で、最初は付き合い程度に観ていましたが、いつしかハマって、

「結局、使徒って何? 人類補完計画って何?」

と、ミステリー要素に引きずられながら、これでエヴァンゲリオンの謎がすべて解き明かされる!と言われて公開された映画を、たしか、新所沢パルコにあった映画館で観た記憶があります。

映画を観ても、さっぱり分からず笑、結局、幾度となく、いろんな形で出る『エヴァンゲリオン』をすべて観てしまっていました。
前に、博多からエヴァンゲリオンの新幹線が走っていたときに、一緒に乗ったスタッフは、新幹線のアナウンスが、カヲルだったことにひどく興奮していましたが、実を言えば僕は、あっそう、くらいにしか思っていなく、有り体に正直に告白してしまうと、しっかりと『エヴァンゲリオン』という世界とコンテンツに、時間とお金を費やした割に、僕は最後の最後まで”傍観者”だったということを認識したのです。

観始めは、友達の話についていけなくからが理由で、世の中の流れ的に、なにか観なければまずいかも知れない、と思って、結局は最後まで観た消費者のひとりという立ち位置です。
エヴァンゲリオンのことを熱く語るファンの人にとっては、底辺と言ってもいい位置かもしれません。

それで、ふと、僕は気づいたのです。

熱烈ではない、低温度の消費者にも、時間とお金を費やさせる『エヴァンゲリオン』とは、やはり、マーケティング的に見て、怪物なのではないかと。

その理由は、終わらせなかったからではないかと。

つまり、『エヴァンゲリオン』とは、長らくネバーエンディング・ストーリーにすることによって、マーケティング的な「エビデンス/実数値」つまりは売上を上げ続けることができたのではないかと。

『1シート・マーケティング』の「7つのマーケティング・クリエーション」で軽く解析して見ましょう。

エヴァンゲリオンの公式サイトによると、大本の『新世紀エヴァンゲリオン』は、テレビシリーズ26話と、当時の劇場版があったようです。僕が新所沢パルコで観たのはこれでしょう。
これらは当時、今のようにNetflixやhulu、アマゾンプライムビデオのようなビデオ・オン・デマンドのサービスがなかったために、多くはDVDやブルーレイなど「物」でかなり売れました。

つまり、テレビアニメは始まりに過ぎなかったんですね。
コンテンツを「物」として売る派生が機能して、「エビデンス」つまりは売上が莫大になりました。さらには映画の興行収入に派生し、この映画もDVDやブルーレイになって「物」にまた派生する。

ここで終わらないのが、エヴァンゲリオンです。

2007年から、今度は『エヴァンゲリオン新劇場版』が始まります。かなりの年月が経っているので、

え? エヴァンゲリオンって何?

とまた、新しくエヴァンゲリオンの世界に触れる人たちが現れます。

つまり、また、DVDやブルーレイなどの「物」のコンテンツが売れ、あるいはレンタルされて消費されるようになります。恐ろしいのは、新劇場版は、「序」「破」「Q」と続き、今回の『シン・エヴァンゲリオン劇場版」まで続きますので、同様の消費が、まるでリフレーンするかのように続きます。

そう、『エヴァンゲリオン』のマーケティングが凄まじいのは、新作が出る度に、それまで出ているすべてのコンテンツが、再び売れて、「エビデンス」化されることです。

まさしく、マーケティング的ネバーエンディング・ストーリー。

この「マーケティング的ネバーエンディング・ストーリー」の戦略は、当然、日本ではマンガの業界が極めて強いですよね。
コミックの『ONE PIECE』も、なかなか終わらない。続けば続くほど、テレビアニメになり、映画になり、また、グッズも売れ、原作もリフレーンで売れます。
最近では、『鬼滅の刃』が23巻で終わったことを意外に思う人が多かったのは、こういったマーケティング的ネバーエンディング・ストーリーができそうなのに、もったいない、と思った人が多かったからでしょう。
ただし、『鬼滅の刃』は、終わっても、終わってませんよね。大ヒットした『劇場版鬼滅の刃 無限列車編』の続きの、遊郭編がアニメ化されることが先日発表されました。(*『鬼滅の刃』は、僕の著書『1シート・マーケティング』でも取り上げています)
23巻で終わった『鬼滅の刃』ですが、アニメはあと2シリーズ、映画もあと2本は行けそうですね。
そうなると、またアニメや映画がローンチされる度に、リフレーンで先行して出ているコンテンツが売れ続けることになります。
しかも、旧作のエヴァンゲリオンの時代とは違って、今では消費のスタイルが様々です。DVDやブルーレイだけでなく、ビデオ・オン・デマンドでも消費され、コミックは「物」だけでなく、電子書籍でも消費されるようになりました。
つまり、『エヴァンゲリオン』や『鬼滅の刃』など、中核となる「コア・コンテンツ」を生み出すことができれば、これからの時代は、マーケティング的ネバーエンディング・ストーリーに持ち込むと、莫大な売上を計上するだろうということが容易に想像できます。

やはり、原作を書くか、と僕も『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を観て、思ったのでした笑。

それにしても、時折魅力的なキャラクターが出てきましたが、安野モヨコさんがデザインで参加されていたんですね、納得でした。
そして、僕は『エヴァンゲリオン』底辺消費者だと言いましたが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はとても好きでした。
純粋に、観てよかったなと思いました。

では、また、『1シート・マーケティング』の解析でお会いしましょう。
読まれていない方は、ぜひ、『1シート・マーケティング』をお読み頂ければと思います。
YouTubeの「1シートマーケティング」公式チャンネルでも、様々解説しております。
どうぞよろしくお願いします。


  1. この記事へのコメントはありません。